蝉の恋
知らせ
俺は東京から持ってきた最低限の荷物を一年前から何も変わっていない俺の部屋に置き、
親父のいる居間に行ったのだ。
「今、帰った。」
昔からそうなのだが、俺は親父に対してどうも無愛想な態度をとってしまうのだ。
「ああ。」
それに対して親父も無愛想に返してくる。
傍から見れば似たもの親子なのだろう。
俺達を見た母も『もうほんと親子なんだから。』と愚痴を漏らすばかりだ。
「体は大丈夫なのか?」
ミンミンミン・・・
親父は外の蝉に負けるくらいの低く小さな声で呟いた。
居間の窓は大きく開かれており、目の前には大木がそびえ立っていた。
東京ではクーラーという便利なものがある為、自然の風を体に浴びるのは実に久しぶりだ。
「ああ。親父に心配されるくらい悪くなったことは無いよ。」
俺は無愛想に呟く。
チリンチリン・・・
俺と親父の間に風が吹く。
天井にぶら下がっていた風鈴もその風によって音を鳴らすのだ。
風鈴は沈黙の空間にえらく響くのだ。
「そうか・・・。高坂さんの娘が体を悪くしてしまって、入院してるんだ。
お前も向こうでそうなっているか心配していたが無用だったな。」
親父は言った一言。
俺の心にずっと響いていた。
「高坂って・・・。」
高坂・・・。それは優衣の苗字なのだ。
優衣には姉妹がいない為、娘ってことは優衣のことなのだ。
「ああ、昔お前と一緒に遊んでいた子だ。」
俺の頭は真っ白になっていた。
『優衣が入院・・・。』その事が頭の中を繰り返し響く。
「こっちに帰ってきたんだ。見舞いくらいはしてやれよ。」
親父の言ってる事は聞こえていたが理解ができなかった。
それくらい頭は混乱していたのだ。
「親父!どこの病院?」
どこの病院も何もここの近くには一つしか入院できるような病院は無い。
冷静に考えればそこであることは明白なのだ
「県立病院だが・・・。」
次の瞬間、俺は居間を飛び出し病院へと駆け出していったのだ。
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