蝉の恋
帰宅
ガラガラガラ・・・
昔のながらの横移動式のドアを開けた。
「今、帰ったよ。」
俺は大きい声で玄関から叫んだ。
ドカドカドカ・・・
床が軋む音と共に走ってくる音がした。
古い家なんだから、そんなに急いでこないでもいいのにと思うほどのものだ。
そして、息遣い荒く俺の目の前に俺の母が立ったのだ。
「おっ・・・おかえり・・・。」
いい加減、歳なんだからと思うほど母は疲れきっていた。
「別にそんなに急いでこなくても良かったのに・・・。」
「だって、久しぶりに会うんだもん。早く会いたいと思うんよ。」
はぁ・・・そういうもんかね〜。
俺は母親じゃないし、それにはなれないからよく分からない。
そもそも、女の気持ちなんて良く分からないものなのだ。
この歳になると、いろいろな女友達がいるのだが、
考えることがさっぱり分からない。
男を惹きつける為に、化粧する奴。
無駄にかわいこぶってる奴。
いろいろいるのだが、優衣もその部類に入っているのだろうか?
少し気になってしまった。
「いつまでも、玄関で立ってるのは嫌だから、
とりあえず荷物だけでも置かせてくれよ。」
「ああ、そうだね。
お父さんももう帰っているから、たんと話してあげな。
ああ、見えて毎日博樹は大丈夫か、大丈夫かって心配してたんだからね。
安心させておやり。」
「あの親父が?」
親父は昔ながらの頑固親父。
俺が上京するときも頑として俺の意見に反対していた。
『お前にはまだ早い!!』
いつも俺に向かって言う親父の口癖だ。
そんな親父が俺のことを心配していたと聞くのはなんか気味が悪い。
「そうよ。お父さんいつもあんたのこと心配してるんだからね。」
「そう・・・なんだ。」
俺は今でも信じられなかった。
それは親父に会えば分かることなのだろうが、それはそれで怖いものがあった。
俺を心配する親父・・・。
背筋がぞっとする。
まぁ、それは会えば分かるし、いつまでも玄関で立っていたくなかったから
荷物を持って自分の部屋に向かうのだった。
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