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シーダ編について
プロローグ
一話 過去
二話 お爺さん

シーダ編〜善悪の調べ〜

第一話  過去

「はぁはぁ・・・・。」
また、あの夢を見た。
私の幼い頃の夢。
お父さんとお揃いの宝物の服を着て、道端でボロボロになっている私。
一日中働くことしかできなかった私。
空腹に耐えていた私。
盗みで空腹を満たしていた私。
とても苦痛だった。
今の暮らしとはかけ離れた位に、苦痛だった。
生きることがとても苦痛で、いっそのこと死のうと思ったこともある。
だけど、私は死ななかった。
死ぬこと自体怖かった。
だから、生きることにした。
うなされていた悪夢がだんだん覚めていく。
これでいい・・・。
あの頃の私はもうここにはいないのだから・・・。

「奥様、お食事の準備ができました。お持ちいたしましょうか?」
コンコンと私の召使がノックをすると食事について聞いてきた。
私はタンスの中のドレスを一着取り、鏡の前で着替える。
あの頃に比べてずいぶん髪の毛が伸びたものだ。
顔にできた傷跡もその痕跡すらなかった。
髪の毛を梳いて、口紅をして、眉毛を整えて・・・。
最後に髪飾りをつけて、私はやっと召使に言葉をかけるのだ。
「ここで取りますので、入ってきてもいいですよ。」
私の召使はドアノブに手をかけドアを半分くらい開け、一礼をしてから入ってくる。
そして、食事の載った台車を部屋の中に引き入れて準備をする。
湯気がたつあつあつのスープ。
具がはみ出るほど入れられたサンドウィッチ。
見てるだけでよだれが出そうなくらいの朝御飯だ。
だけど、今の私はそんなことはしない。
そんなはしたないことは・・・。

私はどこに彷徨っているのだろう・・・。
今日もお腹をすかして、這いつくばるようにあいるいていった。
いつものようにパンをかすめようか。
それともまじめに仕事してパンを買おうか。
私の中の善と悪が私に言葉を吐いてくる。
パンを盗むのは簡単だけど、捕まって酷い目に合わされるよ。
私の中の善が悪を追い出そうと大きく私の前に回る。
そんなんでは死んでしまう。
早くパンを食べたいなら盗んでしまえ。
私の中の悪が善を振り払うように耳元で呟く。
ふらふらふら・・・。
私はふらつきながら、いつもの場所に歩いていっていた。

商店街のざわめき・・・。
私にとってただ鬱陶しいだけの人ごみは、私に味方にも敵にもなる。
それは例えて言うなれば、マジックに使うトランプのよう・・・。
一枚のカードを隠すには、同じカードの中のほうがいいに決まっている。
私が隠れるには人ごみの中のほうがいいに決まっているのだ。
それが私にとっての味方・・・。
しかし、使用者が扱いきれないと種がばれてしまう。
使用者とカードしかないのだから、カードの方に注目するに決まっている。
失敗してしまうとこれほど見つかりやすい所はないのだ。
それが私にとっての敵・・・。
今まで、私は味方ばかり引き付けたことがないのだけど、それがいつも続くとは思っていない。
だから、それがいつ来てもおかしくないのだ。
だから、いつも祈る・・・。
それが今日でないことを。
しかし、その祈りは届かなかったのだ。
それもそうだ。
信じてもいない神が私の祈りなんて受け入れるわけないのだ。
私がパンを盗み、その逃げている途中で捕まってしまったのだ。
捕まった時、ふわっと体が浮き、何が起きたか分からなかった。
前に行こうと思っても、行けない。
何が起きたかよく分からなかった。
「こら。人の物を盗んでは駄目ですよ。」
私を捕まえた人が後ろから諭すような感じで優しく言ってきた。
その声は明らかに若くはない声だった。
もう熟年した人間の声だった。
親のいない私にとってとても懐かしくそして、心のどこかで心地よいとも思っていたのかもしれない。
だから、私は力を抜いて逃げるのを諦めたのだった。